FC2ブログ

記事一覧

#MGM2 .23 #2コマ漫画 7 「労基怪獣襲来」四つ谷カオル

scan-013.jpg

「労基怪獣襲来」四つ谷カオル

 本作では下描きの人物は巨大怪獣、立方体はビルと表現されています。
 人物の下描きは人の形なのですが本作においてはそのシルエットは人のものではない巨大な怪獣へと変えられています。同様に立方体も、辺を上方に伸ばして高さのあるビルに変えられています。
 過去に別の機会に、まんがを描いたことのない人七人にこの下描きに沿ってまんがを描いて戴いたことがあるのですが、彼らは皆与えられた下描きをなぞって描くに留まり、シルエットを大きく崩した人は一人だけでした(その方はこの作例と同じく立方体の辺を上方に伸ばして木の柱として描かれました)。
 その点において本作は、与えられたお題にとどまらず、かといって無視するでもなく、自分の描きたいものをのびのびと描いています。

 また、他作品と比べて特徴的なのは、一齣目において立方体と人物というお題のレイヤーの手前に、さらに一般市民とニュースキャスターというレイヤーが重ねられているという点です。街が巨大怪獣に襲われているという状況をテレビカメラで撮影しているという、入れ子のようなメタ構造が見られます。このような例は今の所他にはありません。

 ストーリーについてですが、一齣目において巨大怪獣がビルを破壊して、市民が逃げ惑う様子がテレビカメラで撮影され、レポーターはそれを悲惨な現状として視聴者に訴えています。
 しかし二齣目において、実は逃げ惑っていると思われた市民は、怪獣から逃げているのではなく単にアニメが観たいから家に急いで帰っていただけだとわかります。また、ビルが破壊されてショックを受けているとの印象をレポーターによって持たされていた会社員たちは、むしろ職場が破壊されるのを喜んでいたということがわかります。怪獣を恐れていたと思われた画面右の若者も、スマホで撮影した事件現場がSNS上で好評だったことを喜んでいます。
 メディアは怪獣の襲来を、悲惨な現状であると伝えています。しかし現場の実情としては、怪獣が来てくれてむしろ嬉しい、もしくは怪獣などどうでもいいと人々は思っているのです。
 自分たちに都合のいいストーリーを勝手に作り出し、その誤った幻想を、現場の声を無視して視聴率稼ぎのために放映しているという、メディア批判のメッセージ性が込められた作品となっています。

 ただ、その複雑な構図は、ややわかりにくいかもしれません。一齣目において左の通行人が(怪獣を除いて)一番大きいのでどうしてもそちらに目が行ってしまいます。一齣目は「テレビが伝える幻想」というのがテーマですので、レポーターの方を大きくしたほうが良かったかと思います。
 そして、二齣目は一齣目において現場を撮影していたテレビクルーを、別の角度から遠くに捉えて小さく写っているカットにしたならば、その画は現場の人の視点になり、「別の見方をすると」というアナロジーになったかと思います。

 まんが技法についてですが、左の通行人は怪獣に驚いているのではなく、アニメの放映に間に合わないから家に帰るのを急いでいたというのが笑いどころなわけですが、目的がやや抽象的かもしれません。これが、男が怪獣の襲来よりも、道に舞っていた一万円札に執着していた、ということであれば、ひらひらと飛んでいく一万円札を追いかける男の図が二齣目に描かれることによって読者に彼の目的がビジュアルで理解できるのですが、アニメに間に合わないというのは、アニメの放映を見るために家にテレビの前に行くのを急いでいたということでしょうが、それはここにはないものであり、テレビモニタの前に鎮座している男という目的達成の図が絵で描かれないので読者は彼の目的をビジュアルによって知ることができません。
 まんがの要素はなるべくビジュアルでわかると読者に理解されやすいと思います。
 ただ、この左の通行人の顔のアップはとても面白くてただそれだけでも笑える要素なので、手を加えるのは惜しいところではあります。

 絵的な点についてですが、一齣目において怪獣が黒で、その上のレイヤーに重なるレポーターも黒髪で黒いスーツでマイクも黒なので、明度が被ってしまいやや見づらいかも知れません。怪獣のハッチングを下半身だけ白く抜くとか、レポーターの方を白い髪白い服装にするなどすればコントラストが上がって見やすくなります。現実には薄い色の髪のレポーターはいないかも知れませんが、まんがで現実に黒いものを黒で描かなければいけないという規則はありません。見やすい方が重要です。
 また、レポーターも黒スーツ、撮影されている社員も黒スーツと服装が被っています。まんがや映画などにおいて同じ場面で同じ服装をしている人は同じグループに属していると読者には理解されます。しかしこの場面では両者は、幻想を押し付けるレポーターと、現実を見ている社員という対照的な存在であるので、まったく違う服装にしたほうが良かったかと思います。社員はブラック企業の社員であるというアナロジーから黒スーツにしたのでしょうが、そうならばやはりレポーターを白い服装にすれば良かったかも知れません。
 二齣目も同様に黒い怪獣と黒スーツの男が被っているので、工夫が必要だったでしょう。
 まんがにおいて近景・遠景といったレイヤーを重ねるというのは実は非常に難しいことです。実相寺昭雄監督作品に、顔を近づけて話している二人の顔の間の奥で他の人たちが話している、といったレイヤーの重なった表現がよく現れるのですが、その画を撮るためには恐らく、近景の二人の役者は話をするには不自然なほど顔を近づけ、台の上に載せて身長差を埋め、照明を抑えて暗くし、遠くの人物は照明を明るくして明度差をつけるなどの、視聴者に見やすくするための数々の工夫がされているかと思います。実写でそれをやるには多くの手間と人手が必要ですがまんがは手で描けばいいだけです。
 左の通行人の服は一齣目は黒で二齣目は白になっています。テーマを考えると、一齣目では見切れていたアニメキャラがプリントされた痛Tシャツの柄が二齣目でフレームインするとすると良かったかも知れません。

 メディアへの批判と、昨今のブラック企業の横行、人の不幸さえネタにしてしまう過激なSNSという時事を捉えた社会派な作品です。あるいはこの巨大怪獣は、ありもしない流行を自作自演して視聴率を稼ぎたいというメディア、ブラック企業がぶっ潰れてしまえばいいという社員、派手な写真を撮って目立ちたいというSNSユーザーの心が生み出した怪物なのかもしれません(左の通行人はアニメが観たいだけですが)。

scan-004 (2)
関連記事
スポンサーサイト