FC2ブログ

記事一覧

#MGM2 .23 #2コマ漫画 12 「あじの缶詰」知絵

scan-011.jpg

 本作では下描きの立方体はダンボール箱と表現されています。

 一齣目においてダンボール箱は地面の稜線の手前にあり、人物二人も稜線の手前にいて真横を向いています。接地面から、両者は同一線上に並んでいるように描かれています。とするとこれは高さ一メートルほどのダンボール箱であるということになります。

 二齣目は場面が変わり、一齣目とは違う二人の人物が描かれています。まんが文法に沿うと、これは一齣目の人物が見ている視点と解釈されます。一メートルの箱の中から、その中に入るにはあまりに容積の大きい、二人の人物と本の山などが、一齣目の人物の眼前に理不尽に出現したという状況を表現しているものと思われます。

 「あじの缶詰」というのは恐らくは作者さまのサークル名なのでしょうが、鯵の缶詰という普通名詞は日常的に使われているものなので、固有名詞だということは説明が必要だったと思います。また、「さえきさんの猫」という注意書きも、さえきさんというのが作者さまの知人であるのか、作者さまのまんがの中のキャラにさえきさんというキャラがいるのかは読み取れません。

 二齣目に描かれているものは現実には一メートルの箱の中に収まりきれないはずですが、これはまんがであるので、物理法則よりもまんが文法のほうが優先されます。結果、読者は、この箱は異次元に通じているとか、魔法のような力で縮小されていたものが元の大きさに戻ったと解釈します。
 これが現実であると、小さい箱からその容積を超える大きなものが出てきた場合、実は箱の底に穴が開いていて容積以上のものを入れることができたなど、人は合理的な解釈を試みるはずです。
 しかしまんがであると人はそれを簡単に魔法だと思うのです。幼稚で非合理的な思考ですが、実はこちらのほうが人間の世界認識の根源なのです。人が合理的解釈をするようになったのは教育が行き届いたここ数十年からでしかありません。まんがとはその古い方の解釈、脳の深い所に訴えかけて世界観を構築する表現方法なのです。

 ただ、この二齣目は「二人が箱から出てきた」という状況を表現していると思われるのですが、画からはそのような動きは見いだせません。ダンボールの中から容積を無視して人とものが突如出現したということを表すのであれば、一齣目で二齣目のキャラが既に頭だけ出ているとか、二齣目でダンボールが弾け飛んでいるなどの描写が必要だったでしょう。本作においてクラゲは、本来は水の中に住んでいるはずのものでありながら空気中に不条理に漂っているということで異次元を象徴するものとして描かれているので、一齣目において予兆として、異次元につながっている魔法のダンボールからクラゲが湧いてきているというような図があれば面白かったでしょう。

 まんが読者は、齣が二つ以上並んでいる限り、その齣には何かの関係性があると思います。それがまんがの根源であり、それによって先に述べたような解釈が生まれるのですが、ただ、本作においては一齣目と二齣目に、ほとんど関係性が見られません。
 関係性が薄いのは、各キャラに役割(ロール)が割り振られていないからです。ロールというのは、読者がキャラを見分けるその前段階で必須になる、まんがの根幹を為すものの一つです。
 読者は主にまんがのキャラ同士の関係性から、この厳つい老人は上司であり、その前で頭を垂れている若者は部下なのだな、というようなロールを読み取ります。そしてロールが決定されたなら、外見や言動から上司は頑固で話のわからなそうな男というキャラであり、部下は根の軽そうなチャラ男というキャラであり、「チャラい部下が頑固な上司に叱られている」という状況を読者は読み取ります。おそらくはチャラ男が不注意から何か失敗をしでかしたのか、あるいは上司が頑固すぎて若者の新しいやり方についていけないのか、などと読者はその状況が生まれるに至った物語を予想し、その通りなのか、そうではないのかという読者の好奇心が物語を進め頁を捲らせる原動力になります。

 本作の一齣目において二人が箱に気づいたというような漫符があれば、二人に「箱に気づいた人」というロールが見いだせますが、現状では二人は、箱を見つけたのか、通り過ぎようとしているのか、通り過ぎるのであればなぜ箱に向かって真っ直ぐ突き進んでいるのか、ロールが判断できる材料がありません。
 「デート中に偶然箱に気づいたカップル」
 「見たことのない異世界の本が売っているという噂を確かめに来た女性と友人」
 「校庭の隅に不法投棄されていたゴミを片付けに来た生徒」
 台詞やキャラの服装や背景を工夫することによってロールはいかようにも付加できます。
 
 また、二齣目の二人にはおそらく「一齣目の二人に本を売りつける売り子」というロールが想定されていると思うのですが、一齣目の二人の反応がどこにもなく、一齣目の二人と関係性があるのかどうか判断できません。
 売り子にものを薦められた客は、それを買うか、断るか、値切るか、品物を貶すか、盗んで逃げるなどの反応を見せるはずです。逆にその反応こそが売り子と客というロールを決定するのです。
 本作においては一齣目の二人と二齣目の二人の間で反応がなく、関係性が見られないので状況がわからず、四人がそれぞれどういうキャラなのかも掴めないので、この二齣が言わんとする物語を読者が読み取るのは困難です。

  まんがではキャラの感情はオーバーに表現したほうが面白いので、一齣目では女性が「わっ」などと箱が勝手に開いたことに驚き彼氏にすがりつき、彼氏が顔を赤らめているなどとすれば「デート中に、勝手に開く箱を見つけて驚くカップル」という彼らのキャラが立ちます。二齣目では突然本を薦められてカップルが動揺する様子を「えっ!? えっ!?」というオフ吹き出し(喋っているキャラが齣に描かれていない吹き出し)で示すと、「虚空から突然人が現れるという状況に困惑するばかりか、さらに押し売りまで受けパニックになっている」という状況が理解されます。
 そうすれば「箱を見つけたカップル」と、「本を薦める二人」はロールの異なった別のキャラであると読者に理解され、「本を買わされそうになっている二人」と、「本を売る二人」という四人の関係性が見えてきます。そして「何も知らないカップルが、路上で突然異世界から現れた二人組の本の押し売りに遭う」というギャグまんが的状況が読み取れ、一齣目の二人は本を買うのか買わないのか、あるいは二齣目の二人は本が売れるのか売れないのか、という物語が創造されます。

 まんがの中の各要素の関係性を示唆する状況を積み重ねて作者と読者の間に共通するコンテクスト(文脈)を形成し、そのコンテクストを下敷きにして読者に物語が読み取られることによって初めて、そのまんがは読者に理解されたということができます。

 キャラのファッションが多彩で、クラゲの種類も多様で楽しく、とてもかわいらしい作品だと思います。

18090906.jpg
関連記事
スポンサーサイト