記事一覧

#創作同人電子書籍 紹介 「コンパイルL」岸大武郎

{コンパイルL}[岸大武郎]




 123頁まんが作品。

 人工知能を積んだロボットが日常に普及した未来の日本で、天才的な腕を持った技師が、ロボットに関わる事件を解決していくSFまんがである。1話完結で3話収録されている。

 1話「生命」:再起不能になった大物政治家を、人工知能ロボット化して生きているようにみせかけてくれと政治集団に強制される技師。技師は天才的な腕前でそれを遂行し、政治家は誰が見てもロボットとは思えないほど精巧な人工知能を得て生き返った。だが意外な結末が……人間とそっくりで、挙動も同じようにみえるロボットは果たして機械なのか? 人なのか? 生命とは何なのか? 作品を貫くテーマを提示する。結末にもう一つの謎解きがあるのも意外で面白かった。おそらくこの謎が主人公を天才的な技師とした原因なのであろう。

 2話「矛盾」:信者に喜捨の尊さを説く一方で脱税など汚い手段で金を儲けている矛盾した神父。彼に使われているロボットは、神の教えである道徳的正義と、神父が裏で行う世俗的悪行との間の矛盾にさらされ故障してしまう。それを主人公が直す。主人公は一技師であり社会的正義を追求するようなキャラではない。だが修理の結果ロボットが悟りを開き、ロボットなりに神の声を聞く。そして主人に逆らえないはずのロボットが主人である神父を警察に訴えるという裏切りを起こす。これは神の命に背き知恵の木の実を食べて楽園を追放された人間の物語を、神を人間に、人間をロボットに一世代下らせた繰り返しである。ロボットが神性というものに自分なりの答えを出すというストーリーに震えた。飽き飽きしたという台詞も利いている。酒を食らって女の尻を撫でステゴロで店員を殴り倒す神父の徹底した俗物っぷりがいい。

 3話「介護」:介護ロボットの脚が故障する。生産終了でメーカーにもパーツがなく、直すことはできない。介護ができなくなった介護ロボットは自分の存在意義がなくなってしまうと嘆く。技師は介護ロボットに義足をつける。これでは介護の仕事はできない。だが技師は君にしかできない大切な仕事があると言う……。肉体の衰えで第一線に立てなくなった人間が陥るアイデンティティの喪失と、そこから立ち直り第二の人生を歩み出すという人間臭いテーマをロボットで描く。ロボットの仕事が介護というのも象徴的である。作者さまの熟練のストーリー運びである。これも意外な結末が待っている。また、主人公の技師がこの世界に普及しているロボットの設計の根幹部分に関わっていたのではないかという伏線が張られる。

 ロボットと人との境はどこにあるのか、ひいては人間とは何なのかというテーマが貫かれる。近い将来必ず来るであろう社会問題と、いくら技術が進歩しようと変わることのない人間というものを描いている。掲載雑誌が休刊して中断してしまったということだがあまりに惜しい。続きが見たい……。

 間違えて、矛盾していて、飽きて、裏切って、失敗して、それでも立ち直るのが人間なのである。果たして人間はロボットにL(LIFE)をコンパイル(機械に理解させること)することができるのか。読者の予想を超える意外な展開も見事である。未来都市の景色と、未来なのに意外に昭和的な下町の風景も美しい。広く読まれるべき、レベルの飛び抜けた傑作である。
関連記事
スポンサーサイト

訪問者数

プロフィール

kurobokuya

Author:kurobokuya






掲載作品一覧→http://kurobokuya.blog.fc2.com/blog-entry-40.html

最新コメント