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#創作同人電子書籍 紹介 「だいらんど」がぁさん

{だいらんど}[がぁさん]



 330頁モノクロまんが。ヤングキングアワーズに連載され単行本化されたが絶版され知る人ぞ知る幻の一冊となった後、マンガ図書館Zによって電子書籍化されたものということである。(出版社では絶版になっているものは創作同人電子書籍として扱わせていただきます)

 冴えないチンピラヤクザの男が鉄砲玉として敵勢力に殴り込むが失敗し敵ヤクザに囲まれ絶体絶命、気がつくと謎のメルヘン世界だいらんどにいた……

 だいらんどには憎しみも暴力もセックスもない。住人は人形のような姿であり、銃で撃たれても血も流さなければ怒ることもない。まるで子どもの夢のような世界である。いや、違う、ここは「大人が考える『子どもの夢の世界』」である。憎しみや暴力やセックスを子どもに思い起こさせないように、大人がいらぬ気を回して注意深く組み立てた無菌のゆりかごのような世界である。絶体絶命だったチンピラを真綿でくるんであやすような過保護な世界。

 チンピラは童話から採った6種類の不思議な世界を冒険していく。次の世界はどうなる? とSF的な面白さがある。初めはこの世界の幼稚さに呆れ反抗していたチンピラが、「大人の国」でだれも傷つかない強盗ごっこを楽しむうちにこの世界に馴染んできて住人と似た人形のような姿になっていく。

 チンピラは「昼の国」「大人の国」「子供の国」「動物の国」「海の国」「夜の国」と国を渡り歩いていく。社会人から子供、言葉を話せない獣、脳すらない原始生物、そして生命すらない死者の世界……これは人間の意識レベルを表層から深層へと辿る旅である(王制である昼の国と大統領制である大人の国の順番は逆なような気もするが)。生まれて成長して老いていくという誰しもが辿る人生の道を遡っていく退行の旅である。

 それぞれの国でチンピラは、王様ごっこであったり、動物になりきったりと望まぬ幼稚な遊びを強要される。子どもに退行し、楽しむことに甘んじれば永遠に子どものごっこ遊びを続けていられる……。冒頭を思い返して欲しい。現実ではチンピラは敵のヤクザに囲まれて殺される寸前なのである。だいらんどの世界で現実に目をそむけ遊び続けていれば無残な最期を迎えることはない……。

 「大人の国」で強盗ごっこに明け暮れていたチンピラは、現実世界から持ってきた実際に人を殺す殺傷力のある実銃を手にして現実のことを思い出す。これを選んでしまったのだからだいらんどのぬるま湯に浸ることは許されない……そして彼は旅を再開する。実際に傷つき血を流し死ぬこともある人間の姿に戻って。安らかな世界を自ら捨てて、辛く苦しい現実世界に帰るのだ……それは理不尽であるが、男が通らなくてはいけない道である。

 果たしてこの世界は何のために存在しているのか? なぜチンピラはこの世界に呼ばれたのか? 世界を渡り歩いていくうちに幾重にも伏線の張られた謎が明らかになってくる。歳を重ねて読み返すほどに見えてくるものがあるはずの優れた作品である。
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