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#コミティア123作品感想 8 「ネネトの嫌いな先生」「10万回のお礼」「AIはコミティアで50部完売の夢を見るか」「エンチャントランド」「ビスキィの冒険」「夢見が丘のりる」

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ネネトの嫌いな先生

 ある男が村の外れに住み着く。男に薬草学を習う村の娘は少女から大人の女へと成長していくのに、男はまったく年を取ることがない……
 例えば紙に印刷されたまんがの中の登場人物は歳を取ることもなく、紙が朽ちても版を重ねてその姿を保ち続ける。子供の頃好きだったまんがの登場人物の年齢を、基底現実の自分がいつの間にか追い越してしまった、ということはコミティアに参加しているような方なら経験があるだろう。まんがの中の登場人物は決して変わることはないのだが、それを読む自分が成長し年老いていくことにより、彼らとの関わり方は変わっていく。
 本書は人とは違う存在であり変わることのない男を、あっという間に成長して老いていく人間の女性からの視点で描いたまんがである。彼との付き合い方は年齢を重ねていくごとに変わっていく。単純な好きでも嫌いでもない、繊細な心の動きを描いている。

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10万回のお礼 yuzuki

 秘宝を狙って魔法使いの家に侵入した怪盗が、犬になる呪いをかけられる。呪いを解く方法は10万回「ありがとう」と言われること。犬になった怪盗は、少女の家に飼われることになり、呪いを解くためにしぶしぶ町の人に善行を施していく。
 悪行ゆえ呪いを受け善行によって解呪されるという古典的な物語の型を元にしたまんがである。ストーリーに新奇なところはないが、犬になった男が善行に目覚めていき、過去の自らの悪行が町の住民にどう思われているか知った後、クライマックスで少女を救う展開は篤い。創作の基本に忠実な丁寧なまんが作品である。


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AIはコミティアで50部完売の夢を見るか 黒屋市

 人口が激減した未来では減った人口を埋める為に人間とそっくりなAIが暮らしていた。この時代では死後の世界というものが実在しているということが証明されている。魂を持つ人間は、死後の世界という「次」があるのだが、逆にAIは壊れれば「無」である。人間が永遠の命を持ち、AIは限りがあるのである。人間とAIの永遠性が逆転している世界観が目を惹く。
 限りある生命のAIが、手を動かしてまんがを描き、わざわざ紙に印刷して、未来コミティアで頒布する。自分のまんがを読みにスペースまで来てくれるAIは、時間に限りのある故に次も来てくれるかどうかわからない……この衰退していく世界観がいいようもない寂寥感を醸す。

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エンチャントランド 富沢ひとし

 空間を飛び越える超能力を持つ少女。コインなどを回転させることで空間を捻じ曲げて遠隔地に移動することができるのだが、この描写がすごい。空間がコインの回転に巻き取られるように捻じ曲がっていき、彼女自身が世界の外に出るという様子が絵で描かれるのである。空間転移の描写というSF小説家が古来から試みてきたことを説得力のある絵にしてしまう。普段の背景の描写もすごい。もはや超絶技巧の域である。


(画像は作者さま同シリーズ別作品)
ビスキィの冒険 まつむらまきお

 ビスキィとワットが暮らすルナパークの出来事が綴られる。道に路面電車が、水路にシュビムワーゲンが行き交う高低差のある立体的な都市ルナパークの風景がとてもよい。描き込みとディフォルメのバランスがすばらしく猥雑な都市風景を描きつつもまったく見づらくない。ここに住みたいと思う。時空をねじまげて元の時刻に戻ってくる路線などのアイディアはSFのワンダーに満ちている。

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夢見が丘のりる なかせよしみ

 博士が作り出す奇抜な新技術が少女りるの生活に溶け込んだ世界を描く日常SF。生体電磁波を感知して自らの場所を特定するメカというかペットというかの発明など、メカ的というより有機的な新発明が面白い。街の絵が素敵。
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